17世紀の中ごろ、「力とはなんだろう」という問題が注目を浴びた。デカルトは速さvに比例する量だと主張し、ライプニッツは速さの2乗(v2)に比例する量だと主張した。デカルトの根拠は、物体の速さに比例してその物体を受け止めるときの衝撃が大きくなることであり、ライプニッツの根拠は、運動する物体がほかに与える影響が速さの2乗に比例して大きくなることであった。今では、速さに比例する量は運動量、速さの2乗に比例する量は運動エネルギー、運動する物体が他へ与える影響は仕事と呼ばれている。
物体にF[N]の力を加えて、「その向きに」s[m]動かしたときの力の効果を次のように表そう。
これを仕事という。単位は[J]で、読み方はジュール。
上の式を見ても分かるように、どれだけ大きな力を加えても、物体が全く動かなければ(s=0)、仕事はW=0ということになるので気をつけよう。
また、仕事は、「力の向きに」どれだけ動いたかどうかなので、力の向きと移動した向きが直交している場合もW=0になる。
力の向きと移動した向きが正反対の場合には、負の仕事をしたとみなされ、仕事は負の値となる(W<0)。
それでは移動した向きに対して力の向きが斜めを向いている場合はどうだろうか。このときには、斜めの力を分解してやって、移動の向きと同じ成分だけを考えればいい。例えば、
仕事の計算をしてみよう。まず、重さmg[N]の物体を鉛直上向きにゆっくりと(重力と力のつり合いを保ちながら)h[m]だけ持ち上げるときの仕事W1は、公式「W=Fs」より
であることが分かる。次に、傾きθの斜面に沿って、同じ物体をゆっくりと持ち上げることを考えてみよう。このときの外力がした仕事W2は、公式「W=Fs」より
であることが分かる。W1=W2より、斜面を使って与える力を小さくしても仕事は変わらないということが分かる。
次は動滑車を使って同じ物体をh[m]の高さまでゆっくりと持ち上げてみよう。このとき、ひもを引く力は物体の重さの1/2でいい。ところが、引くひもの長さはhの2倍になる。よって外力がした仕事W3は、公式「W=Fs」より
になる。W1=W3より、動滑車を使っても仕事は変わらないということが分かる。
このように、「斜面や道具を使って加える力を小さくしても仕事は変わらない」というきまりを仕事の原理という。
同じ量の仕事をこなすにしても、人や道具によって費やす時間が違う。これを比較するために「1秒間あたりの仕事」という量を考えることにしよう。これを仕事率という。t[s]間にW[J]の仕事をしたときの仕事率は、
と表される。仕事率の単位は[W]で、読み方はワット。
問題
重さ50Nの荷物を2mの高さまで5秒間かけてゆっくりと持ち上げた。このときの外力がした仕事の仕事率は何Wか。
→このとき外力がした仕事Wは、公式「W=Fs」より
100Jである。続いて仕事率の公式「P=W/t」より
よって、答えは20W
ところで、仕事率の公式を書き変えると
となり、単位の形でこの計算式を表してみると、
となる。ここから、1[J]とは、1[W]の仕事率で1[s]間にすることができる仕事ということが分かる。ただ、1[s]間だと短い気がするので、これを1時間(hour)で考えて、[Wh]という単位を導入しよう。読み方はワット時。
1Whは、1Wの仕事率で1hにすることができる仕事のことである。さらに、1kWの仕事率で1hした仕事を1kWhと書くこともできる。読み方はキロワット時。