動いている物体Aが他の物体Bとぶつかると、AはBを壊したり動かしたりすことができる。これは仕事をしたということで、もともとAは「仕事をする能力」を持っていたということができる。これをエネルギーという。エネルギーが仕事として消費されるということだ。
質量m[kg], 速さv[m/s]のトラックが大きな荷物に衝突し、等加速度直線運動をしながらs[m]だけ進んで静止した。このとき、トラックは運動の向きとは逆向きに力F[N]を受け続けていたとすると、運動方程式(ma=F)から
のように加速度aを求めることができる。ここで、等加速度直線運動の速度の式「v=v0+at」より、
静止するまでの時間tを求めることができるので、続けて等加速度直線運動の変位の式「x=v0t+(1/2)at2」を使うと、
となる。右辺に仕事「W=Fs」をまとめてみよう。
右辺Fsが仕事だから、左辺は仕事をする能力(エネルギー)だと考えることができる。特に、今は運動している物体(トラック)が持っているエネルギーだから、これを運動エネルギーという。
運動エネルギーKの単位は、仕事と同じく[J]である。質量m[kg], 速さv[m/s]という単位にも気を配ろう。
問題
20m/sで走行中の1×103kgの自動車が持つ運動エネルギーKを求めよ。
→運動エネルギーの公式より、
よって、答えは2×105 J
ところで、さっきの式変形の過程で導かれた
という関係を、「運動エネルギーと仕事の関係」と呼ぼう。この式は、トラックがもともと持っていたエネルギーと、トラックが荷物に対してした仕事が同じ大きさであることを示した上皿天秤型の関係式である。
続いて、この式を次のように書き変えよう。
するとこの式は、もともと(1/2)mv2の運動エネルギーを持っていたトラックが、外部から(-Fs)という負の仕事をされて、運動量を失った(0になった)という意味になるので、時系列型の関係式ということがいえる。
運動量と力積の関係のときにも話したように、時系列型の関係式の方がおすすめ。時間を追いかけながら式を作っていく方が間違えにくい。
高い位置からボールを落とすと、ボールは重力から仕事をされて運動エネルギーを持つようになる。運動エネルギーを持つようになるということは、もともと高い位置にあるボールには仕事をする能力があったということになり、この能力(エネルギー)を重力による位置エネルギーという。
重力による位置エネルギーU[J]は、重さmg[N]の物体が高さh[m]から落下したときに重力がした仕事W[J]と等しいと考えることができるので、
ということになる。
ところがよく考えてみると、h[m]落下した後で「落下する前にはmgh[J]のエネルギーを持ってました」と言われても仕方がない。なぜなら、すでにそのエネルギーを失ってしまっているのだから。
そこで、床や地面などの〈基準面〉から重力mg[N]に逆らってh[m]持ち上げたとき、物体が「重力に逆らう力にされた仕事W'」を、〈基準面〉からの高さh[m]における重力による位置エネルギーU[J]とする(U=W')。
また、位置によって重力は変化しないから必要はないが、この計算を定積分の形で表すと次のようになる。
では〈基準面〉よりも下にある物体の重力による位置エネルギーを考えてみよう。もちろん〈基準面〉へ落下することはないが、重力に逆らう外力がした仕事を考える方法ならば計算することができる。鉛直下向きを正の向きとすると、
つまり、〈基準面〉よりも下にある物体の重力による位置エネルギーは負の値を取ることになる。だから、重力による位置エネルギーを考える場合には、〈基準面〉の位置に注意する必要があるというわけだ。
A地点とB地点の〈基準面〉からの高さを、それぞれhA[m]、hB[m]とする。ここでA地点からB地点まで物体を移動させたとき、重力が物体にした仕事W(A→B)は、
である。A地点、B地点での重力による位置エネルギーをそれぞれ
と表すことにすると、
のように、重力がした仕事を重力による位置エネルギーの差で表すことができる。
ところで重力がした仕事は、最短距離を移動しても寄り道をしても回り道をしても変わらない。これを「経路によらない」と表現し、重力のようにその力がした仕事が経路によらないとき、この力を保存力という。
また、物体を〈基準面〉から移動させているあいだに保存力に逆らう外力がした仕事を位置エネルギーといい、保存力がした仕事はその位置エネルギーの差で表すことができる。
高い位置にある物体と同じように、変形したばねも手を放した瞬間に動き出す。つまり、変形したばねがエネルギーを持っていると考えることができる。これを弾性力による位置エネルギー(弾性エネルギー)という。
自然長のばねをx[m]だけ変形させたとき、ばねの弾性力はばね定数をk[N/m]としてkx [N]だから、ばねに加えている外力も同じくkx[N]である。よって、このときにばねが蓄えている弾性エネルギーU[J]は、
ということになる。kx[N]・x[m]=kx2[J]ではないので注意しよう。弾性力がばねの変形量に無関係であればこの計算でいいが、弾性力は変形力に応じて大きさが変わるためだ。