原子物理

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粒子性と波動性


 1600年代、光は「波」か「粒子」かという議論が巻き起こる。当時はニュートンの名声から光粒子説が優勢だった。しかし1800年代にトマス・ヤングが光が干渉という波の性質を示すことを発見し、光は波動であることが確定的となった。ところが1900年に入り、光を波動と考えたのでは説明の付かない現象が発見されてしまったのである。

光電効果


 金属板に紫外線などの光を当てると電子が飛び出す。この現象を光電効果、飛び出した電子を光電子と呼ぶ。

 光は波なので、強い(明るい・振幅が大きい)光ほど大きなエネルギーを持っている。だから、与える光が強いほど、飛び出す電子は大きな運動エネルギーを持つと考えられる。ところが、光の強さを変えても、飛び出す電子の運動エネルギーは変わらないのだ。それどころか、与える光の種類によっては、電子が飛び出すことさえないのだ。このような事実は、光を波だと考えていたのでは説明が付かない。

 ポイントをまとめると次のようになる。

  • 振動数がν0よりも小さな光を当てても電子は飛び出さない。
  • 振動数がv0よりも大きい光であれば、その強さ(明るさ)に関係なく電子は飛び出す。

つまり、光電子が飛び出すかどうかは、光の強さ(明るさ)ではなく、光の種類(振動数)によるということなのだ。このときのν0を限界振動数、波長λ0を限界波長という。

 

 さらに、次のようなことも言える。

  • 光電子の運動エネルギーの最大値Kは、振動数νが大きいほど大きい。
  • 光電子の数は、与えた光の強さに比例する。

光を波と考えれば、強い光を与えるほど光電子の運動エネルギーKが大きくなるはずだが、そうはならない。

光電効果の実験


 図のような実験を考える。陰極に限界振動数ν0よりも振動数の大きな光を当てると、光電子が陽極へ向かって飛び出し、電流が流れる。このときの電流Iを光電流と呼ぶ。

 この実験では、

  • 電圧Vを大きくしても、電流Iの大きさは変わらない。
  • 光の強さ(明るさ)を大きくすると、電流Iが大きくなる。

という結果になる。これは、光の強さを大きくすると、光電子の数が増えるためだ。また、電圧を大きくしても電流に変化がなかったのは、飛び出す光電子の数が変わらなかったためだ。


 続いて、電位差Vを0にしたり、電池の向きを変えて陽極の電位を負にして実験してみる。電位差Vがであっても、電子は運動エネルギーを持って飛び出すので、陰極から陽極へと到達し、ある程度の光電流は流れる。ところが、陽極の電位をある値V0よりも小さくすると、ついに光電流は流れなくなってしまう。このときの電圧V0を阻止電圧という。


 ここまでの話を光電流Iと、陽極の電位Vとのグラフにまとめると、図のようになる。V>0の場合、Vを大きくしてもIの値は変わらない。Iを大きくしようと思ったら、与える光の強さを大きくする必要がある(橙→赤)。また、V<0の場合、-V0を境として電流が流れなくなっている。このときのV0が阻止電圧である。

光量子仮説


 以上の内容は、光を

というエネルギーを持った粒子の集まりであると考えれば説明が付く。この粒子を光量子(光子)という。cは光の速さ、hはプランク定数と呼ばれる値で、

 光子が、電子を飛び出させるのに必要なエネルギーhν0を持たない場合には、いくつぶつけても電子を取り出すことはできない。このことが、いくら明るい光でも振動数νが小さいと電子が飛び出さないことの理由だ。

 

 光の振動数νと、光電子の運動エネルギーの最大値Kの関係を表したグラフの傾きをhとすると、このグラフは

という式で表されることになる。光の振動数がν0のとき、K=0だから、

となる。Wを仕事関数と呼ぶ。


 では仕事関数とはなんだろう。1つ上の式を、

と書き変えてみると分かりやすい。E=hνのエネルギーを持っていた光子が金属中の電子にエネルギーを与え、受け取った電子はWというエネルギーを消費して金属表面に現れ、Kという運動エネルギーを持って外部へ飛び出すということだ。つまり、仕事関数Wとは、金属中の電子を表面へと取り出すのに必要なエネルギーのことなのだ。

粒子の波動性


波と考えられていた光(電磁波)が粒子性を持っているということは、粒子と思われているものには波動性があるのではないか。ルイ・ド・ブロイはそのようなことを考えた。アインシュタインは光子はエネルギーE=hνだけでなく、運動量

を持つと考えたわけだが、ド・ブロイは、この式を、

と、考えたわけである。ド・ブロイが考えたこの波を物質波と呼び、物質波の波長をドブロイ波長と呼ぶ。では具体的にドブロイ波長を計算してみよう。例えば、0.15kgのボールが速さ40m/sで進んでいるとき、そのボールのドブロイ波長は、

このように、非常に小さい。では、100Vで加速された電子のドブロイ波長を求めてみよう。エネルギー保存則より

と計算できる。だいたい原子1つと同じ大きさであることが分かった。