核反応と素粒子


 原子力発電所では、核分裂という核反応を利用してエネルギーを取り出している。今回はこの仕組みについて学んでいこう。

結合エネルギー


 ヘリウムの原子核は2つの陽子と2つの中性子からなっているが、これらが集まって原子核になると、バラバラの時よりも質量が小さくなる。この質量の差ΔMを質量欠損という。

ヘリウム原子核 4.00151u
陽子 1.00728u
中性子
1.00866u


 ヘリウムの原子核は陽子が2つ、中性子が2つだから、質量欠損ΔMは

となる。ここで、1u=1.66054×10-27kgだから、

と表すことができる。


 また、アインシュタインによると、質量m[kg]とエネルギーE[J]は等価なものであるという。この関係を、

と表す(c[m/s]は光速)。例えば、1円玉は1gだから、

90兆ジュールという膨大なエネルギーを持っていることになる。これを静止エネルギーという。

 

 陽子と中性子が集まってヘリウムの原子核になると、エネルギーが発生する。このエネルギーΔEは、質量欠損ΔMを使って

と表される。このエネルギーを結合エネルギーという。ヘリウムの質量欠損を使って計算すると、

 

結合エネルギーが大きいほど、陽子と中性子がバラバラで存在しているよりも、原子核の状態の方がエネルギーが小さく、「安定である」ことを表している。核子(陽子や中性子)1つあたりの結合エネルギーが最も大きな原子核は鉄であり、鉄が最も安定な原子核であることが分かる。ゆえに、鉄よりも大きな重たい原子核は核分裂によってより安定な鉄に近づき、小さな軽い原子核は核融合によって安定になろうとするのだ。

核反応


 原子力発電所では、ウラン235のに中性子を当て、原子核をクリプトン92とバリウム141などに分裂させることで、エネルギーを発生させている。

反応の前後で、質量数・原子番号が一致していることは分かるかな? この反応では、反応前の物質全体の質量よりも、反応後の物質全体の質量の方が小さくなっており、減少した質量がエネルギーとなって放出される。また、反応によって生じた中性子が別のウランの原子核と衝突することで、次々と反応が継続する。この状態を臨界という。

 太陽の内部では水素の原子核が核融合を行うことでヘリウムが生じ、その際に膨大なエネルギーが外部へ放出されている。

素粒子


 陽子や中性子は、今ではそれよりも小さなクォークと呼ばれる粒子が3つ集まってできている。それ以上分けることができない最小の粒子は素粒子と呼ばれ、クォークは素粒子であると考えられている。

  • 陽子…アップクォーク2つ+ダウンクォーク1つ
  • 中性子…アップクォーク1つ+ダウンクォーク2つ

クォークには6種類あり、電気量によって2種類に分類できる。

  • 電気量+2e/3…アップ、チャーム、トップ
  • 電気量-e/3…ダウン、ストレンジ、ボトム

最も重たいクォークはトップクォークで、最も軽いアップクォークの100000倍もの質量がある。

 

 電子も素粒子のひとつで、ニュートリノと呼ばれる質量がほぼ0で電荷をもたない素粒子とまとめてレプトンとも呼ばれる。レプトンもクォークと同じく6種類あり、こちらも電気量によって2種類に分類される。

  • 電気量-1…電子、ミュー粒子、タウ粒子
  • 電気量0…ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ

 

 また、これまでに見てきた張力や弾性力、垂直抗力といった力は原子レベルで見ると、そのほとんどが電磁気力として説明することができる。例外は重力のみ。また、原子核が集っている力である核力や、クォーク同士が結びつくための力は強い力(強い相互作用)と呼ばれ、ベータ崩壊などの現象を引き起こす力を弱い力(弱い相互作用)と呼ばれる。このような力は素粒子をやり取りすることで生じていると考えられており、力を伝える素粒子をゲージ粒子という。例えば、電磁気力を伝える光子がゲージ粒子である。

  • 光子…電磁気力を伝える。
  • グルーオン…強い力を伝える。
  • ウィークボソン…弱い力を伝える。

 

 クォークとレプトンをまとめてフェルミ粒子(フェルミオン)という。また、物質に質量を与える素粒子をヒッグス粒子といい、ゲージ粒子とヒッグス粒子をまとめてボース粒子(ボソン)という。

フェルミ粒子とボース粒子を合わせると16種類があるが、これらの粒子に対して質量などが等しく電気量の符号が逆の粒子を反粒子という。太陽内部の核融合反応では、陽電子と呼ばれる電子の反粒子が放出されている。

 このような素粒子によって、物質や力を説明するという考え方を標準理論という。