grad,div,rot


 新しい物理量や単位ががたくさん出てきて、そろそろ嫌になってきたかもしれない。電磁気を学ぶポイントは、登場する物理量がベクトル量なのかスカラー量なのかを常に意識してみること。今回やるのは、そんな物理量を結びつける大切な計算方法だ。

grad(勾配)


 電位Eは、電位φの傾き(grad φ)を使って表すことができる。ただし、傾きとは符号が逆であるから、マイナスを付けなくてはならない。

具体的には、(x,y,z)方向への偏微分をすることで、それぞれの方向の傾きを求めることができるから、

である。

 ここで、

という記号を使うと、上の式は

になる。gradの方が意味が分かりやすいが、∇を使う方が、どのような計算をすればよいかが分かりやすい。


 また、いまはφがスカラー量だったが、ベクトル量を微分するとどのような意味になるのだろう。例えば、次のようなものが考えられる。

∇も3成分を持つベクトルのようなものだと考えれば、ベクトルの積ということで、内積のようなもの外積のようなものを計算することができる。次は、これらの性質について考えていこう。

div(発散)


 それでは、先に内積のようなものの計算からやっていこう。素直に計算すれば、

となる。内積の計算は覚えていたかな?


 ここで、∇・Eの第1項

が何を表すのかと言うと、Eのx成分の、x方向の変化量を表している。Exという量が、微小距離dxを通過する間に増加すれば、これは正の値になり、減少すれば負の値になる。


 ところで、Exがx方向負の向きであるとき、Exの大きさが、微小距離dxを通過する間に小さくなったとしよう。この場合も、Exのx方向の変化量は正である。マイナスの値がが小さくなるということは、変化量はプラスなのだ。

 だから、∇・E>0というのは、dxdydzという微小な領域から物理量Eが湧きだしているというイメージを持つことができる。そこで、湧き出しや発散の意味を持つ「divergence」を使って、∇・Eを

と書くこともある。∇・Eの方が計算過程は分かりやすいが、div Eの方が物理的な意味は分かりやすい。

rot(回転)


 次は外積のようなものの計算をしてみよう。外積がベクトル量だったのと同様に、この計算結果にも3つの成分があるので分けて書けば、

となる。外積の計算方法とよく見比べて確認しておこう。

 

 さて、いきなり3成分は分かりにくいので、∇×Eのz成分に注目して説明してみようと思う。まず、この式の第1項

はどういう意味かというと、Eのy成分Eyをdxだけ異なる位置で比べたときの変化量を表している。だから、dxだけ進んだ位置の方がEyが大きければこの値は正となり、小さければ負となる。


 また、Eyがy軸負の向きの場合、dxだけ異なる位置におけるEyの大きさが小さければ、いま考えている変化量は正になる。


 それでは、∇×Eのz成分の第2項

の意味はというと、Eのx成分を、dyだけ位置の異なる場所で比べたときの変化量を表している。だから、dyだけ進んだ位置の方がExが大きければこの値は正となり、小さければ負となる。


 また、Exがx軸負の向きの場合、dyだけ進んだ位置におけるExの大きさが小さければ、いま考えている変化量は正になる。


 ところで、∇×Eのz成分の第2項には、実はマイナスの符号が付いている。このマイナス付きの値が正になるためには、これまで考えてきた値が負になればいいわけだから、例えばExがx軸負の向きで、dyだけ進んだ位置におけるExの大きさが大きくなる場合などが当てはまる。


 以上をまとめると、Δ×Eのz成分が正になるためには、dxだけ進んだ位置の方がEyが大きく、dyだけ進んだ位置の方がExが大きければいいということになる。


 この内容をもっとイメージしやすくすると、上のような図になる。Eが回転しているように見える。そこで、∇×Eのことを、回転を意味する「rotation」を使って、

と書くこともある。∇×Eの方が計算過程は分かりやすいが、rot Eの方が物理的な意味は分かりやすい。


 最後に、rot Eはベクトルなので、図のように表される。Eが回転しているとき、そのように回転した右ねじが進む向きがrot Eの向きになっている。これはベクトルの外積と同じだ。