ギブスとエネルギー


 エネルギーという単語は、トマス・ヤングが名付けた。ボルタが電池を発明したことで、化学エネルギーから電気エネルギーが取り出せるようになった。さらに、電気エネルギーから磁気エネルギーが生み出されることをエルステッドが発見した。

ルネ・デカルト(1596~1650)

 釘に石を乗せただけのときよりも、石を打ち付けたときのほうが釘は深く埋まります。つまり、運動している物体にはそれだけの「力」があったのです。この「力」は速いほど強い。速さに比例する量に違いありません。

ライプニッツ(1646~1716)

 いやいや、「力」は速さの2乗に比例する量だよ。だって、物体を落としたときにできる穴の深さは、落ちる直前の速さの2乗に比例するんだからね。

ダランベール(1717~1783)

 彼らの言う「力」は活力とも呼ばれ、宇宙全体で保存されるものと考えられていた。そして、彼らの支持者によって半世紀以上もこの論争は続けられた。これを活力論争と呼ぶ。この論争を終わらせたのが、僕やオイラーだよ。力の時間的な影響を見ているか、距離的な影響を見ているかの違いでしかなかったんだ。力積や仕事だね。だから、デカルトとライプニッツが考えていた「力」は、それぞれ運動量や運動エネルギーに近いものだった。

サディ・カルノー(1796~1832)

 次は、熱エネルギーについて見ていこう。熱は、もともと物質だと思われていた過去があるんだよ。熱素という物質が移動して熱が伝わると考えられていた。これを熱素説という。熱は温度が高い方から低い方へ移動するわけだけど、このとき熱機関に仕事をさせることができるよ。僕のイメージは水車なんだ。水が落下すると水車は回って仕事を生み出すことができるよね。このとき、水が減ってしまうわけじゃない。熱が仕事をするときも同じように熱は減るものじゃないと考えたんだ。

マイヤー(1814~1878)

 熱素なんてものはなく、熱は増えたり減ったりします。化学が電気を生み出し、電気が磁気を生み出したように、熱は仕事を生み出すと私は考えます。原因の「力」から結果の「力」が生み出されるとき、「力」は一定に保たれています。

 気体の温度を1℃あげるのに必要な熱量を、次の2種類の方法で測定しました。体積一定で熱を加えるときと、圧量一定で熱を加えるときで熱量に差ができます。この差は、圧力一定のときに気体が膨張して外部にする仕事になります。熱と仕事の比を仕事等量と呼び、これが一定値になることから、熱と仕事が互いに交換可能だということになるんだ。

ジュール(1818~1889)

 僕もマイヤーと同じで、熱と仕事は互いに交換可能なものだと感じていたよ。理由は、誘導電流によって抵抗が発熱しても、回路の温度が下がらなかったからなんだ。電池をつないでいれば、熱素が供給されたと考えることもできたけどね。このことから、熱と仕事の比(仕事等量)を求めようといろいろ考えた結果、おもりと羽根車を使った実験を思いついたんだよ。非常に精度の高い計測が必要だったけど、成し遂げることに成功したよ。

ヘルムホルツ(1824~1894)

 これまではまだ「力」がニュートンのいう力と、エネルギーの両方の意味で使われていた。私は、すべての自然現象は力学的な効果に還元できること、自然の基本的な性質として保存される何かがあるという信念のもとで研究しています。化学、電気、磁気、熱は力学的効果に変換することが可能なはずです。しかし、現在「力」と呼ばれているものには、保存されるもの(エネルギー)と保存されないもの(ニュートンの力)があるため、区別して考える必要があるでしょうね。

ウィリアム・トムソン(1824~1907)

 エネルギーという言葉が広まっていったのは、ウィリアム・ランキンが位置エネルギーを命名し、私が運動エネルギーを命名したころです。運動する物体が持つエネルギーのことを、運動エネルギーと呼びましょう。気体は小さな分子が集まってできていて、熱を加えたり気体を圧縮したりすると、分子の運動エネルギーが大きくなるんですよ。カルノーたちが熱は増えたり減ったりしないと考えていた理由は、熱機関から仕事を取り出して元の状態に戻したとき、熱機関が持つ熱が変化するのはおかしいという思いからでした。そこで私は、熱機関を元の状態に戻したときに変化しないのは、熱ではなく気体の内部エネルギーだと考えたのです。内部エネルギーとは、気体の分子が持つ運動エネルギーの総和のことです。

ウィリアム・ランキン(1820~1872)

 トムソンは熱と仕事が互いに変換されるというだけでなく、それらが物体の内部エネルギーを変化させる要因だと気付いたんだ。内部エネルギーが熱や仕事によって変化することを、「熱力学第1法則」と呼ぶよ。気体の内部エネルギーは、分子の運動エネルギーと位置エネルギーの両方の和なんだ。位置エネルギーは、高い位置の物体が持つエネルギーのことで、高さには重力的な意味だけでなく、電気的な意味や、分子間力的な意味もあるよ。

ルドルフ・クラウジウス(1822~1888)

  カルノーは、水車が動くには高低差が必要なように、熱機関が動くためには温度の違う2つの熱源が必要だと考えた。エネルギーが保存され、熱が同じ量の仕事に変換されるというだけなら熱源は1つでいいはず。しかし、カルノーは2つの熱源が必要だと考えた。これはジュールらの主張と矛盾しないのだろうか。また、熱機関には最大効率があって、それは逆回しが可能なほど限りなくゆっくりと熱機関を動かした場合だ。熱機関に最大効率があるということは、熱をすべて仕事に変えることはできないということ。これにエネルギー保存を考慮すれば、仕事に変えられなかった熱を放出する必要がある。吸収した熱をすべて仕事に変える熱機関は存在しない。トムソンはこうして熱の性質に新しい情報を付け加えることで、熱力学第1法則とカルノーの理論の矛盾を取り除いた。これを熱力学第2法則という。

 高温熱源から熱機関が熱を受け取り、その一部を仕事に変換して残りの熱を低温熱源へ放出する。つまり、熱は高温側から低温側へ移動し、自然に逆向きの移動は起こらないということもできる。熱力学第2法則について考えていたとき、可逆な過程では変化せず、不可逆な過程では増加する量を見つけた。これをエントロピーと名付けたよ。もう少し詳しく言うと、外部とやり取りできない領域での熱現象は不可逆で、エントロピーが増加する。宇宙全体とかね。

ウィラード・ギブス(1839~1903)

 僕は、エンタルピーや自由エネルギー、化学ポテンシャルという量を導入して、熱化学という分野を作り上げたよ。状態変化や化学変化における平衡状態についてまとめたんだ。こういった量を使って化学変化や物質の状態変化を表したんだよ。