速さと速度


 物理の世界へようこそ! 物理のことをカッコいい!」と思ってもらえたら嬉しいな。

速さ


 高校物理は「速さ」から始まる。では速さが何かを離す前に、「速い」「遅い」とはどういうことかについて詳しく見ていこう。例えば、50m走の記録が10秒のAちゃんと10秒のBさんを比べると、「速い」のはBさんだと言える。これは、距離が同じで、かかった時間が短いからだ。

 一方、50mを10秒で走るAちゃんと、100mを10秒で走る陸上選手を比べると、陸上選手の方が「速い」といえる。これは、時間が同じで、走った距離が長いからだ。

 このように、距離と時間のうち、一方が同じ数字なら、もう一方の数字を比較することでどちらが「速い」のかを判断することができる。

 では距離も時間も違う場合はどうすればよいのだろう。この解決方法は2つあって、1つは「決まった距離を進むのにかかる時間」を比べる方法で、もう1つは「決まった時間に進む距離」を比べる方法だ。1つ目の方法なら時間が短い方が速いといえるし、2つ目の方法なら距離が長い方が速いといえる。このうち、2つめの量のことを「速さ」という。どうして1つ目ではなく2つ目の量を考えるのかというと、「数値が大きい」ほど「速い」といった方が分かりやすいのが理由だと思う。

 「決まった時間」のことをこれから物理では「単位時間」と呼ぶことにする。単位時間は1秒でも10分でも1時間でもいいけれど、1秒と1時間をよく使う。

  • 「速さ」の定義…単位時間あたりの移動距離

 いま、単位時間を1秒とすると、50mを10秒で走ったBちゃんは「1秒間あたり5.0m」進んでいることになるので、これがBちゃんの「速さ」というわけ。この速さを、単位を付けて5.0m/s(メートル毎秒)と表す。sは秒を表すsecondの頭文字。「/s」は「1秒間あたり」という意味。

40kmの距離を2.0時間で走ることができるマラソン選手がいるとする。単位時間を1時間とすると、このマラソン選手は、「1時間あたり20km」進んでいることになる。この速さを、20km/h(キロメートル毎時)と表す。hは時間を表すhourの頭文字。「/km」は「1時間あたり」という意味。

 

 50mの距離を10秒間で走ったAちゃんの速さ5.0m/sは、

と計算すれば求めることができる。今後、物理では、いろいろな物理量を記号で書いて、それらの関係を表すことになる。試しに速さをv、距離をx、時間をtと表すことにすると、上の関係は、

となる。ちょっとカッコよくない? 

 

 

 

(問) 40kmを2.0時間で走ったマラソン選手の速さは何km/hか。

(答)

 50mの距離を10秒で走ったAちゃんの速さは「5.0m/s」で、40kmの距離を2.0時間で走ったマラソン選手の速さは「20km/h」となるわけだが、この2種類の速さはどちらの方が「速い」のだろう? それを知るためには、どちらか一方の単位に合わせてやる必要がある。やってみよう。

 

① km/h → m/s

 1km=1000m, 1h=3600sだから、

 

② m/s → km/h

 1m=(1/1000)km, 1s=(1/3600)hだから、

 

単位をm/sに合わせて比較をすると、Aちゃんは5.0m/sでマラソン選手は5.6m/sだから、マラソン選手の方が速いということが分かる。単位をkm/hに合わせて比較をしても、Aちゃんは18km/hでマラソン選手は20km/hだから、マラソン選手の方が速いということが分かる。

 テレビ中継を見ていて思うけど、マラソン選手ってめちゃくちゃ速いよね。計算してみると、50メートル9.0秒のペースで2時間以上も走り続けてることになるんだよ。

 

速度


速さに向きを加えた量を「速度」という。例えば、

  • 東向きに5.0m/s
  • 西向きに3.0m/s

このような量が速度だ。そう考えると速さとは「速度の大きさ」ということになるから、上の例だと5.0m/sや3.0m/sが「速さ」ということになる。

 また、東西や南北、左右といった一直線上の運動の場合、一方を正の向きと定めることで、正と負の符号を使って速度を表すことができるようになる。例えば、東向きを正すると、上の例は

  • +5.0m/s
  • ー3.0m/s

となる。正の符号は省略されることもあるから、東向きを正と決まっていれば5.0m/sだけでもOKだ。

 

変位


では速度を計算によって求めるためにはどうするか。例えば、「西向きに3.0m/s」という速度を表す「-3.0m/s」を求めるためには、

という計算をすればいいことが分かる。ただ、注意しなければならないのは、分子の「-30m」という量が移動距離ではないということ。なぜなら、移動距離は正の値しか持たないからだ。そこで、移動距離に向きを加えたようなこの量を、新しく「変位」と呼んで移動距離と区別することにしよう。

  • 「変位」の定義…位置の変化量

 変位は「位置の変化量」と定義されている。どういうことかというと、x軸上で原点0から50mという位置へ移動したとすれば、その位置の変化量は「+50m」になるということだ。逆向きに、原点0から-30mという位置へ移動したときは、「-30m」となる。

 では、-30mという位置から、50mという位置へ移動したとき、その変位はどうなるだろう。図を見れば分かるように、答えは「+80m」だ。これは、

という計算で求めることができる。前の位置が-30mで、あとの位置が50mだから、「あと-まえ」という計算によって求めることができることが分かる。デルタΔは「Δx」や「Δt」のように使って、xやtが変化量であることを強調したいときに用いる。

 変位の計算を公式化(一般化)しておく。x_Aという位置からx_Bという位置へ人や物体が移動したとき、変位は「あと-まえ」だから、

となる。

 物理では、今後も温度変化や時間変化などといった変化量を扱っていくことになる。変化量の計算は、基本的に「あと-まえ」となるのでよく覚えておこう。ちなみに時刻tの変化量Δtを「時間」「経過時間」という。

 

 

 元の話に戻ろう。「-3.0m/s」という速度を求めるためには、「-30m」という変位を、10秒間という経過時間で割ればよかった。この計算を、速度v、変位Δx、経過時間Δtを使って表すと、

となる。これまでの話から、速度は1秒間などの決まった時間に、どれだけ位置が変化したのかを表す量であることが分かってもらえたと思う。

  • 「速度」の定義…単位時間あたりの変位

このように速度を定義すると、速度が、ただ速さに向きをくっつけただけのものとは呼べなくなる状況が存在する。最後にそのような問題を解いて今回はおしまいにしよう。

 

(問) x=-30mの位置を出発した物体が、x=50mの位置で折り返して原点に達した。この運動に10秒間を要したとして、速さと速度をそれぞれ求めよ。

(答)

 まず速さを求める。移動距離xは実際に進んだ距離だから、

である。よって速さは、

となる。

 続いて速度を求める。変位Δxは位置の変化量だから、

である。よって速度は、

となる。

 変位は、始まりの位置と終わりの位置だけで決まる量だから、最短距離で移動しようが、先まで進んでUターンして戻ってこようが関係ない。途中の経路には影響されない量なのだ。