摂動


縮退のない場合


 厳密に解くことができるシュレーディンガー方程式

があるとする。ここからわずかなずれ(摂動)を与えた新しいハミルトニアン

を考え、このハミルトニアンが満たすシュレーディンガー方程式

を解くことを考えよう。ハミルトニアンが少ししか違わないため、もとの固有ベクトルやエネルギー固有値とも少ししか違わないはずなので、小さな値λを使って、

とべき級数展開する。λの係数を1次の摂動状態ベクトル、1次の摂動エネルギー、λ^2の係数を2次の摂動状態ベクトル、2次の摂動エネルギーなどと呼ぶ。これらを求めよう。展開した式をシュレーディンガー方程式へ代入すると、

となる。ここで、λの係数だけを選び取ると、恒等式の関係から、

が得られ、λ^2の係数だけ選び取ると、

が得られる。λの式と、摂動がないときの状態ベクトルの内積を計算しよう。

左辺第1項から、

の関係を使ってエネルギー固有値を取り出し、右辺第2項は、正規直交条件

を用いることで、

となる。左辺第1項と右辺第1項が打ち消し合うので、

1次の摂動エネルギーが求められた。

 次は、λの式と、m番目の無摂動状態ベクトルとの内積を計算しよう。

左辺第1項からエネルギー固有値を取り出し、右辺第2項に正規直交条件を用いると、

となることから、m≠nのとき、

を得る。m=nのときの式は、摂動がある場合の状態ベクトルの内積

を使おう。λ^2以降は影響が小さいので無視すると、正規直交条件から、

このように、複素共役な複素数の和が0という式になる。このことから、この内積は純虚数となり、

のように表すことができる。まとめると、

となる。あとは、完全性の条件

を利用して、1次の摂動状態ベクトルが、

と求められる。これで、摂動を与えたときの固有ベクトルが、

と求められた。

 続いて、2次の摂動エネルギーを求めよう。シュレーディンガー方程式のλ^2の係数と、無摂動のときの状態ベクトルとの内積を計算する。

左辺第1項からエネルギー固有値を取り出し、右辺第2項には1次の摂動エネルギーを代入し、右辺第3項は正規直交条件によって変形する。

これで2次の摂動エネルギーが求められる。

よって、摂動がある場合のエネルギー固有値が、

と求められる。

 

縮退がある場合


 同じエネルギー固有値を持つ固有状態が複数ある場合、すなわち縮退がある場合は、

の分母が0になってしまう。この分数が有限の値を持つには、分子も0になればよい。いま、同じ固有値を持つ固有状態

について、シュレーディンガー方程式

がそれぞれ成り立つとしよう。ここで、

であれば、初めの分数が有限の値になる可能性があるが、その保証はない。そこで、

を満たす新しい状態ベクトルを作り、元の固有ベクトルの和

で表そう。新しい状態ベクトルも、シュレーディンガー方程式

を満たす。

 では、新しい固有ベクトルを得るために、元の固有ベクトルを足し合わせる式に用いた係数cを求めよう。元のハミルトニアンに摂動を加えて、縮退が完全に解ける場合を考える。すなわち、

となるエネルギー固有値が1つに定まるとする。ここで、固有ベクトルとエネルギー固有値を、

と展開し、λの係数

およびλ^2の係数

を選ぶ。ここで、λの式と、元の摂動がない場合のβ番目の固有ベクトルとの内積を計算する。

左辺第1項からエネルギー固有値を取り出し、左辺第2項と右辺第2項を、元の固有ベクトルの足し合わせで表せば、

より、左辺第1項と右辺第1項が打ち消し合い、右辺第2項を計算すれば、

を得る。ここからは、2重に縮退していた場合を扱う。上の式は、

となり、行列を用いて

と表すことができる。cが0以外の解を持つためには、

である必要がある。これを永年方程式と呼ぶ。永年方程式を解くことで得られた摂動エネルギーEを、前の式に代入することで、係数cが求められる。

 ここからは、こうして得られた新しい固有ベクトルを使って、摂動エネルギーや摂動状態ベクトルを表すことを考えよう。λの式と、摂動がないときの新しい固有ベクトルとの内積を計算する。

左辺第1項からエネルギー固有値を取り出し、右辺第2項は正規直交条件を用いて、1次の摂動エネルギー

が得られる。

 続いて、λの式と、β番目の無摂動固有ベクトルとの内積を計算する。

左辺第1項からエネルギー固有値を取り出し、右辺第2項は正規直交条件を用いると、β≠αのとき、

を得る。

 続いて、λの式と、m番目の無摂動固有ベクトルとの内積を計算する。

左辺第1項からエネルギー固有値を取り出し、右辺第2項は正規直交条件を用いると、m≠nのとき、

より、

を得る。m=nのときの式は、λ^2の式を利用して、β番目の無摂動固有ベクトルとの内積を計算することで得られる。

左辺第1項からエネルギー固有値を取り出し、右辺第3項は正規直交条件を用いると、

になる。ここで、完全性の式

を挿入する。ただし、k=nのときと、k≠nのときで分けて挿入すると、

となり、

より、

m=nのときの内積が得られる。摂動によって完全に縮退が解ける場合を考えているので、β≠αであることに気を付けよう。これで、1次の摂動状態ベクトルが得られた。

 最後に2次の摂動エネルギーを求めよう。λ^2の式と、α番目の無摂動固有ベクトルとの内積を計算する。

左辺第1項からエネルギー固有値を取り出し、右辺第3項に正規直交条件を用いると、

となり、完全系の条件を使って、

と変形し、前の結果を代入していけば、

こうして2次の摂動エネルギーを求めることができる。

 以上より、縮退があるときのエネルギー固有値

および、固有ベクトル

が得られた。