摂動 ←→
今回は、時間に依存する摂動v(t)を加えた場合を考えよう。時間に依存するシュレーディンガー方程式は、
となる。ここで、摂動がないときの時間に依存しないシュレーディンガー方程式
となる。この方程式を満たす波動ベクトルの時間発展
を考え、時間に依存するシュレーディンガー方程式の解を、その和で表すことにする。
この係数Cを求めることが今回の目的である。これを元の方程式に代入して、
左辺の積分を実行し、右辺第1項からエネルギー固有値を取り出すと、
になる。すると、左辺第2項と右辺第1項が打ち消し合い、
と書ける。ここで、n番目の波動ベクトルとの内積を取ると、
となる。ただし、左辺には正規直交条件
を利用した。これより、係数C(t)の微分
が得られた。ここで、
と係数C(t)をラムダで展開しよう。これを代入して、
λ^0の係数だけ選び取ると、
となり、
であることが分かる。時刻t=0までは摂動がなく、t=0以降に摂動が加えられたとしよう。時刻t=0までは状態kで、摂動によって、ある確率で状態nへ遷移すると考える。すると、時刻0で状態kの確率は1、状態nの確率は0だから、
と表すことができる。続いて、シュレーディンガー方程式からλの係数だけ選び取ると、
となる。これを積分することで、1次の係数C^1が得られる。
では、具体的な摂動を考えて、この計算をしてみよう。
時刻t=0以降、時間変化しない摂動を与えたときを考える。
すると、C^1(t)が、
と計算できる。ここで、係数C(t)の2乗
が状態kから状態nへの遷移確率を表す。λ^2以降の項は影響が小さいので省略した。ここまではわかりやすくλを使って表してきたが、ここからはλ=1としよう。すなわち、
を確率密度と考えればよい。ここで、
を用いることで、
を得る。これをグラフ上に表すと、
となる。状態nと状態kのエネルギーが等しいときに遷移することがわかるが、わずかにずれてもよいこともわかる。また、
が大きくなるにつれて、エネルギーのずれが小さくなっていくこともわかる。aの値、すなわち時間tを大きくしていくと、エネルギーのずれが0に近づいてくことになる。エネルギー幅ΔEと、摂動を与えた時間Δtの間には、
の関係があり、これをエネルギーと時間の不確定性関係と呼ぶ。また、
について、
の関係を使うことにより、
を得る。δ(x)はデルタ関数である。これが遷移確率であるが、時刻tを無限大にしているので、もはやtを残しておく必要はないだろう。そこで、単位時間当たりの遷移確率
を考えよう。これを、フェルミの黄金律と呼ぶ。
例えば、時間変化しない摂動の例として、湯川ポテンシャル
を考えてみよう。この式は、μ→0とすることで、静電気力による位置エネルギーになる。湯川ポテンシャルによる散乱を経て、状態がkからnへと遷移したとする。フェルミの黄金律は、
となる。積分は、3次元極座標を考えて、
のように計算していけばよい。ただし、1行目では
とおき、Kベクトルをz軸に平行に取ることで、
とした。また、2行目以降は
とおき、sで積分した。さらに、
であることより、
だから、
となる。これをフェルミの黄金律の式に戻せば、
を得る。ここで、遷移が起こるのは状態kとnのエネルギーが等しいときであり、これはkベクトルとnベクトルの大きさが等しいときである。これをkと書くことにすると、
と書き直せるから、
となる。Θはkベクトルとnベクトルの間の角度(散乱角)である。ここで、μ→0として静電気力による位置エネルギーにすると、この式は
となる。散乱実験がこの式を満たすことから、ラザフォードは原子核を発見し、太陽系モデルを発案した。
それでは、次は
のように振動する摂動を時刻t=0以降に与えたとしよう。C^1が、
と計算できるので、遷移確率が
と得られ、単位時間当たりの遷移確率、すなわちフェルミの黄金律が、
こうして求められる。遷移が起こるのは、
のときである。図にすると、
このようになり、状態kとnのエネルギー差hνに等しい摂動エネルギーによって遷移が起こることが分かる。